PERSPECTIVE 03_ 直感をすくい取る。

「油絵を仕上げるには何日もかかるし、建築は完成までに数年待たなければいけない。けれど、写真はシャッターを押せば、通り過ぎる一瞬を切り取ることができる。目の前のものを瞬時に捉えるという感覚が身体的にぴったりの方法なんです」

2019年2月に行った展覧会『IMPROVISING EARTH WORK ─小さな旅の巡り─』のメインビジュアルを撮り下ろしたほか、写真集『Rippling』を刊行したり、10代の少女を被写体に撮影するなど、WONDER FULL LIFEとさまざまな新しい取り組みを行う写真家の中川正子さん。彼女の写真と向き合う独自の姿勢に大きな影響を及ぼしているのが、アメリカ留学時代に経験したプレゼンテーションの授業だった。

「作品のなかに私のなにが宿っているのかを伝えるものでした。自身の感覚や体験、思想を的確に表現することは難しいものだなと実感しつつも、相手からは思いがけない反応が返ってくる。その感覚の交換が新鮮で、思わず夢中になってしまったのです」

現在はSNSを通じて日々感じていることを積極的に伝えているほか、年内にはフォトエッセイも刊行するなど、写真だけでなく言葉を介した表現手段をごく自然に求めるようになった。さまざまな人々が絡み合い、自由なエネルギーを蓄えるWONDER FULL LIFEは、思いのまま表現したいと考える彼女の気持ちをそっと後押ししてくれると話す。

「フォトグラファーならば、写真だけで伝えるべきだと考えていた時代もかつてはありました。でも、いまの私にとっては、こうした伝え方がものすごく肌に合っているし、毎回新しい発見を感じる。プロの物書きではないからこそ、構えることなく自由な感覚を維持できているのかもしれません」

快活で天真爛漫な中川さんだが、小学校2年生くらいまでは、教室の片隅でじっと本を読みながら一人で物思いに浸るタイプで、友達と会話を交わすことも少なかった。その後、班長や学級委員などに任命されたことで人前に立つことも増えて積極的に。ただ、心のどこかに自分の中の声と対峙し続ける「小2までの中川正子」が潜んでいて、WONDER FULL LIFEに携わっていると、そんな昔の感覚がときおり蘇るという。

一方で、透明感のある光に満ちた美しい写真に評価が寄せられる中川さんの写真。自身の感覚のなかには、光とは別ものや正反対のものも存在していると話す。

「闇がなければ光の存在を意識しないように、世の中は多種多様なものが調和しながら成立しています。私はただ、光と闇が混じり合う世界のなかで、光を選んで表現していることに共感してくれたり、感動を覚えてくれる人たちがいることが奇跡であり、ありがたく思うんです」

写真は、コンマ数秒の間につくられる芸術だ。たとえば被写体はカメラを向けられていることは意識していても、いつシャッターがおりているかまでは分からない。そこには嘘のないありのままの様子が映り込む。

「写真を撮ることを『Shooting(撃つ)』と言いますが、私の場合は『すくい取る』感じ。写真は加工して、作り込むことも可能な世界。だからこそ、私にとってはありのままに直感をすくい取ることを大切にしていきたいんです」

Text_ Hisashi Ikai
Photo_ Masako Nakagawa