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絵になるための衣。

疾走しながら、縦横無尽に広がっていく多彩な色のなかに、深い茂みに蠢き、草原を駆け巡り、大空を自由に舞うさまざまな生き物たちが息づく。ミロコマチコさんが描き出す世界は、勢いに満ち、見るものを圧倒するエネルギーに溢れている。

「私自身はめちゃくちゃ弱虫で、小心者。でも、絵を描いているときだけは意識が集中して夢中になれる。私にとって、絵はお守りのようなもの。特にライブペインティングをしているときは、日頃気になっている小さな不安がすべて吹っ飛んで、羽ばたけるような気持ちになるんです」

感情が赴くままに描いていると、いつの間にか着ている服や養生のために床に敷いていた布に絵の具が飛び散り、創作のプロセスが刻み込まれる。時間が経つにつれ布に付着した絵の具はカチカチに固まってしまうのだが、こうした絵の具の残骸もお守りの一部。そう思うと、着られなくなっても捨てられずにいた。

2019年奄美大島に移住。豊かな自然からインスピレーションを得ながら、奄美伝統の染め技法でキャンバスを染めて創作に取り組んでいたミロコさんは、ライブペインティングで使う服や布も絵の一部に取り込めないだろうかと考えるようになった。

「完成形の絵だけでなく、その工程や時間、空間の雰囲気までも含めて、すべてを絵のなかに取り込みたい。そう考えたときに、“絵になるための服”がつくれればいいなと思ったんです」

WONDER FULL LIFEと協働するなかで、ライブで絵の具がまとわりついた衣装を解体。それを染め直し、再びその上に絵を描くことで、新たな生命を吹き込むという新しい創作が生まれた。

「ライブでは一気に色を重ね合わせていくので、そのあいだに何が起こっていたのか自分ではあいまいなのですが、着ている服には私がどんな動きをしながら、どんな色を使ったのかという痕跡がはっきりと残されている。記憶を蘇らせながら、また次の創作に重ねていくのはとても新鮮でした」

床に這いつくばって描けば膝周りの汚れは濃くなり、腕を曲げながら色を足していると、いつのまにか肘の内側に絵の具溜まりができている。服を解体すると、すでに一枚の絵のはじまりがそこにあるようで、意識が無限に広がっていった。

あまり説明が得意ではないため、これまで単独での創作を基本としていたミロコさんだが、WONDER FULL LIFEを通じて、金井工芸の金井志人さんや写真家の在本彌生さんとのコラボレーションが生まれ、多くの人々と絡み合う結果となった。

「すべてが同時進行で、グルグルとまわっていく。とても不思議だったけど、ごく自然ななりゆき。まだその先がずっとあって、いつまでも広がり続けていく感じがしました」

色を塗り重ね、輪廻転生を繰り返すミロコマチコさんの作品には、生きとし生けるものが、すべて何かしら関わりを持ちながら世界の調和を保ち、循環し、時代をつないでいく様子までもが映し出されているのかもしれない。

Text_ Hisashi Ikai
Photo_ Yayoi Arimoto
  • ミロコマチコ

    画家・絵本作家。1981年大阪府生まれ。いきものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催する。ブラチスラバ世界絵本原画ビエンナーレ、巌谷小波文芸賞などを受賞。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。2021年に開催された「いきものはわたしのかがみ」「うみまとう」展のライブペインティング、展示などで、WONDER FULL LIFEと協働した。