DISCOVER 01_ ゆらぎの世界。

クバ布

福岡のギャラリー、ライトイヤーズとのコラボレーションで、これまで幾度となく使ってきた〈クバ布〉。モノトーンに描き出された幾何学的な斜め格子をベースに、美しく描き出される多種多様な刺繍文様。遠く離れた国の織物は、なぜこれほどまでに神秘的で多くの人を惹きつけるのだろう。

クバ布とは、アフリカ中央部にあるクバ王国で伝統的に作られてきたテキスタイルのこと。

素材として使われているのは、熱帯アフリカに自生するラフィアヤシで、これを細かく裂いて作った繊維を織り、細かな刺繍を施していく。17世紀から現在までほぼ同じ手法で生産されているクバ布は、現地では衣服の材料としてだけでなく、敷物やバスケット、そして調度品の装飾など、さまざまな目的に使われている。

このように何百年ものあいだ生産の形が変わらない理由は、クバ王国の地理的理由が考えられる。クバ王国は、現在のコンゴ民主共和国のなかに存在するが、首都のキンシャサから1000km以上離れた辺境の地。さらにサンクル、カサイ、ルルアという3つの川が合流するデルタ地帯にあるため、植民地化や西洋的近代化の波を強く受けることがなく、独自の文化を守ることができたと言われる。

一方で、王国に存在する18ほどの部族がそれぞれの文化、慣習を残していたことや、男性用の布が地位や役割によって形式が決まっているが、女性用の布には決まりがなく、装飾が自由だったこと。(ちなみに織り手の多くは男性だが、刺繍を施すのは女性の仕事)。
さらに、ステッチは手縫いで制作に何ヶ月も有するため、作り手の意識がうつろったり、作り手がほかの人に変わることもあり、どことなく自由で、心地よいゆらぎに似た感覚がクバ布には存在するのも事実だ。

シャアム・ア=ムブル・ア・ンゴーング王が統治したことにより1625年頃に誕生したクバ王国だが。1910年にベルギー領コンゴとして植民地化されたことをきかっけに、国際的な政治主権こそ失っており、地図上にクバ王国は存在しない。しかし、王政がいまだ存続しており、現在はコット・ア=ムブワーキ3世が統治するなど、地域的な特性がものづくりにも色濃く影響しているのだろう。国としてのあり方には大きな違いこそあるが、300年以上という長い王政のなかで独自のものづくりが発展した様子は、江戸時代の日本で多様な工芸が成長し、連綿と現代に受け継がれている姿に共通性を感じずにはいられない。

WONDER FULL LIFEでは、この布の魅力を自分たちの感覚で再解釈してパッチワークに似た方式で縫い合わせ、靴やバッグなどを作ってきたが、製作の最中に強く感じるのは、織りや刺繍手の自由な感覚だ。

前述したように、一枚の布にも複数の人が関わっていることがあるので、縫い合わせていると突然織り目が細かくなったり、粗くなったりという変化が見られる。パターンも途中で突然逆方向になったり、まったく異なる文様が織り交ぜられることもある。60×60cmが基本サイズだが、寸法も一定ではない。

その都度、パターンを考え直したり、布の状態に合わせてミシンの糸調子や裏地を変更するなどの手間はかかるが、それが逆に面白みにつながっている。
小さな布のなかに存在する多様な世界に触れていると、直接会ったことのない作り手と布を通して対話しているように感覚にも陥る。

素材が語りかけてくる言葉に耳を傾け、世界に一つしかないものを創る。新しい生命を得たクバ布が、手にした人のもとで、次なる世界の広がりを生み出している。そんなことを考えると、嬉しい気持ちになってくる。

Text_ Hisashi Ikai